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研究紹介

ギャラリー


 少子高齢化、環境問題、安全安心、中心市街地活性化などそれぞれの地域が抱える問題に対して、多くの地域で、行政、民間企業、市民、NPO、専門家など多様な主体がより”豊かな”地域社会を形成していくために、地域独自の資源を活かしながら、協働してまちづくりに取り組んでいます。このようなまちづくりは、まちを変えていく空間的デザインとあわせて、わたし(たち)とまちとの関係性を変えていく地域デザインが重要となってきます。

政策のデザイン


 これまでの都市・地域計画は行政による規制と誘導によって行われてきましたが、近年それとともにコミュニケーションによる心理的な方策の有効性が示されてきました。たとえば、モビリティ・マネジメントというコミュニケーション型の交通政策による効果が実証されています。このような心理的アプローチによる態度行動変容は、交通政策だけではなく、住民の生活行為全般に拡張することができ、商店街活性化や地域防災、郊外住宅地における住民活動の活性化など多様な分野で期待されています。このようなコミュニケーションを活かした取り組みを通して、統合的な地域政策デザインを目指します。

交通政策での研究例をあげてみましょう。
公共交通の利用促進は、環境的観点、効率的観点、健康的観点、教育的観点から求められています。そのためには公共交通のサービスレベルをあげたり、新しい交通手段を整備してきました。ただそれだけではなく、利用者によき社会を目指して、公共交通を利用促進していく社会的意味を伝えていくこともあわせて実施していくことが必要です。こうした交通政策のアプローチをモビリティ・マネジメントと言います。

 S市の市役所の転入届を提出する窓口で、交通行動をきくアンケートを配布する人(制御群)と、アンケートと併せて公共交通の社会的意義を示したパンフレット、市内のバスマップや時刻表を配布する人(情報提供法群)をランダムに決めて配布してもらいました。アンケートを返送してくれた人に1ヶ月後、1年後、3年後に再度アンケートを郵送し、そのバス利用頻度を集計した結果が右の図です。この図から分かるように、転入してきたときに公共交通の意義とその具体的な情報を知るだけで、その後の交通行動が大きくかわってくるのです。交通行動がかわるということは、その人、まわりの家族の暮らしも大きくかわってくることを意味します。たとえば、外食をする際、クルマを使うことを前提とした場合はクルマ利用が便利な郊外のお店に行くことが多くなります。しかしバスを使うことを前提とした場合はバスが使いやすい中心市街地にあるお店をひいきにするようになります。このように交通行動が変わると暮らしが変わり、暮らしが変わると街の形をかえていくことになります。  

関係性のデザイン


 地域デザインを実践していくためには、多様な主体が関係し合いながら、地域で実践していくアプローチがますます増えていきます。立場が異なる主体が協力しながら活動していくためには、各主体のパーソナル・ネットワークに着目して、役割分担を定量的に分析し、知見を蓄積していくことが期待されています。そこで、地域活動の支援と実践を通して、市民と市民、市民と専門家がよりよい地域デザインに向けて、共進化していくための担い手の関係性のデザインを目指します。

まちづくり活動は、同じ問題意識を持った人たちとの出会いがきっかけではじまります。ただ、そのような人たちと議論するだけでは、地域や社会に対して影響を与えることはありません。どんなに小さなことでもよいので、何かを外向けに活動を始めることで、その人たちとの間柄が急速に縮まります。学生時代の文化祭や体育祭で盛り上がった経験を思い出せば、共感してもらえるのではないでしょうか。さらに、同じ志をもった人との出会いによって新たな方向性が生まれ、まるで一つの生き物のように躍動し始めます。このようにまちづくり活動を活性化させる秘密は、人との出会いにあります。この人との出会いを分析するツールが社会ネットワーク分析です。

 たとえば、交通まちづくりでの研究例をあげてみましょう。
 交通を取り扱った活動は、道路を管理している市や公共交通を運行している企業と連携していかなければならないので、他のまちづくり活動と比べて市民と関わりがうすい取り組みが多くなります。しかし、大阪府枚方市では、NPOが中心となって多様な交通まちづくり活動を実践してきました。この活動はバスタウンマップの作成やバスを使ったイベント(バスのってスタンプラリー)、市内の小学校への出前授業など多岐にわたります。特にバスのってスタンプラリーは、単に公共交通を利用してもらうことを目標とするのではなく、公共交通を使った枚方での暮らしの素敵さを伝え、よりよい地域にすることを目標としています。このような多様な主体が活動できる秘訣を探るために、過去のメーリングリストや議事録などを参考にデータ化して、どのように人と人とのつながりが広がってきたのかを視覚化したのが右の図です。このネットワークから誰が中心的な役割を果たしてきたのか数値化することができます。こうしたグットプラクティスの研究事例を蓄積することによって、行政、交通事業者、NPO、専門家、住民のそれぞれの役割について地に足のついた議論が可能になります。
 

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